形成外科医の海外医療支援って・・。

私は昭和大学の出身です。昭和大学病院形成外科は毎年多くの新入医局員が入るマンモス医局で日本中に多くの優秀な形成外科医を派遣しています。たくさんある仕事の中で最も素晴らしい事業の一つが海外への医療支援事業です。*注意:この記事は長文です!!(今、正直しんどい若手形成外科や形成外科を目指す研修医の先生、学生さんなどに少しでも励みになれば幸いです!)

バスの上に人が!!

昭和大学形成外科は色々な団体と共同で年に数回のミッションをアジア、アフリカなど恵まれない地域で展開しておりますが私が参加させていただいネパールでの事業をご紹介します。

ネパールでの事業はADRA Japanとの共同事業で主に口唇口蓋裂という先天性の疾患に対し、治療を受けられない患者さんを無償で手術に当たるという内容です。2週間程度の期間で毎年約200人前後の患者さんの診察と60〜100件ほどの手術を行います。麻酔科医、形成外科医、手術室看護師、病棟看護師、薬剤師など全てボランティアで渡航費は各自の自己負担という厳しい条件ながらも20年間も続いているんです。私も2014年と2015年の2回、勤務医という立場ながら当時派遣先の病院であった院長先生や同僚の協力もあり参加させていただくことができました。

物資も日本からの輸送となるため航空会社や針糸などのメーカーさんの支援を受けながら物資をかき集めていただき手術に必要なもの全てを日本から輸送します。大量のダンボールを運び現地の税関で止められたりしながら無事に到着。

短い期間のため手術を受けたい患者さんをあらかじめラジオ放送などでネパール全土から集め一気に診察を行って行きます。患者さんの中には遠い村々から丸2〜3日かかり受診する方もいらっしゃいました。中には初めて村から出たという方もおり、口唇口蓋裂があるために他の村に行かせてもらえないなどの事情もあり非常に辛い思いをされている方がおりました。中でも私が一番ショックだったのは口唇口蓋裂の初回手術をされていない成人の方がかなりいたことでした。

病院の中庭で診察を待つ患者さん達

現地の病院の手術室の一角をお借りし3人の形成外科医がそれぞれ手術を行って行きます。場所が限られているため2つの手術が1室を区切り同時進行で行われます。停電がよく起こるので電池式のヘッドライトを装着しながらの手術ですが一人でも多くの患者さんの手術をするため集中しすぎて停電に気づかないなんてこともありました。

一見するとなんか大変そうなところで手術をしているなぁという感じですが、手術の道具も厳選され日本から持ち込まれているため、日本で手術をしているのとほとんど変わらず手術ができました。この時非常に強く実感したのが形成外科の道具の少なさでした。私の手術で現在腫瘍切除などで使用しているセットはハサミ2本、フック、鑷子2本、メス、持針器の7点セット。口蓋裂の手術ではこれに剥離子を2本加えた9点程度のセットで十分です。こんなに海外支援に向いている外科は少ないのではないかなぁと思いました。しかも患者さんは直ちに命の危険があるわけではないため手術が待機的で良いため我々がくるのを待ってくれている!(悪くいえば後回しにされているわけですが・・・。)そんなこんなで2週間で100人〜120人という手術を毎年行って、20年。事業が始まった当初は無料で手術をしてくれるなんてうまい話は信じられなかったようで手術に送り出す母親が泣きながら子供の手を離して行く(麻酔をかけて殺されるんじゃないかと疑っていたようです)なんてこともあったそうです。

地震で破壊された町の様子 2015年

私が参加した2014年、2015年はその間にネパールでは大きな地震があり多くの建物や人的被害がありました。そんな大変な時にも関わらず無事に1年後に再開できた患者さんや現地病院のスタッフさんに感謝しつつ2年目の参加時も多くの手術を担当させていただきました。医師としての仕事は非常に使命感や満足感の高い仕事ではありますが日々の仕事に忙殺され何と無く患者さんのためという意識は希薄になってしまう瞬間が出てくるものですが、日常と離れたボランティア医療の経験は何とも言い難い不思議な満足感と感謝の気持ちが沸き起こる貴重な体験となりました。

そんなボランティア事業を運営されているADRA Japanさんは日本各地の震災でも活動をしております。寄付などは随時募集しておりますので活動をチェックしてください。http://www.adrajpn.org